毎日、子どもたちが楽しみにしている「給食」。わが子が保育所でどんなものを食べているのか、どう栄養が考えられているのか、気になるところですよね。越谷市の公立保育所では、栄養士さんが日々献立を考え、全ての保育所で同じメニューの食事を提供しています。
今回は保育施設課の栄養士さんにお話を伺いました。子どもたちの笑顔のために、どんな工夫や想いがあるのか、たっぷりご紹介します。
【給食全体について】
保育所給食の献立づくりで、最も大切にされていることは何ですか?
保育所には0~5歳児までのお子さんがいますので、発達段階が大きく異なる中でも安全で美味しく食べられる料理と献立を目指しています。また、日本には四季があり旬の食材を使った昔ながらの料理がたくさんあります。家庭での洋食化が進む中で、食べる機会が減ったといわれている昔ながらの和食などの提供も心がけています。
栄養バランスやエネルギー量は、どのような基準を参考にしていますか?
日本人の食事摂取基準を基に、乳児クラスは1日に必要な栄養の50%を午前の牛乳、お昼ごはん、午後のおやつで提供しています。幼児クラスは45%をお昼ごはん、おやつで提供しています。
4月は定番メニューが多かったり、5月はたけのこなどの季節野菜や魚のバリエーションが豊富だったり、季節によって献立に特徴があるように思いました。献立のサイクルや食材選定について教えていただけますか?
4月は入所して間もない子や、進級したばかりで保育所に慣れる期間のため、食べなれた献立を意識して提供しています。5月以降はその中でも季節食材を(そら豆やアスパラなど)定番の人気の献立と一緒に提供しています。食べられない子や苦手な子もいますが、例えば年長さんにそら豆の皮むきをしてもらうこともあり、食材に触れてもらう機会にもなりますので提供を続けています。献立のサイクルは特にありませんが、多職種で給食への意見を出し合って、子どもたちが楽しく美味しく食べられる献立作りを目指しています。
人気メニューのカレーやから揚げ、ハンバーグなどは定番メニューとしてほぼ毎月提供しています。その中で季節の食材も取り入れたり、年に一度秋に幼児クラスを対象に好きな献立アンケートを行っています。
献立を考えるうえで、特に大変だと感じることはどんなことですか?
野菜が多かったりすると噛み疲れてしまうことがあり、食べやすい食材との組み合わせに気を付けています。また、各保育所の規模・設備が違い、できる調理工程が異なる中で17の保育所の統一献立を作成していくのも工夫が必要で、腕の見せ所です。
保育所で使用しないNG食材などはありますか? もしあれば、その理由も教えてください。
窒息予防の観点から、ミニトマトやぶどう、白玉、ポップコーン等の提供はしていません。アレルギーの観点からは、キウイ、エビ、カニ、魚卵、ピーナッツなどのナッツ類等の提供をしていません。咀嚼しづらいイカ・タコなども使用していません。
以前は提供できていた食材も、安全性が見直されることがよくあります。定期的に公的なガイドラインを参照しながら年々対応を変えています。
【塩分・味付けへの配慮】
例えば乳児の献立表では1.8から1.9gの食塩相当量の日も見られますが、味付けについてどのような工夫をされていますか?
乳児クラスには毎日味噌汁を提供しています。煮干し・かつお節からだしを取り、だしの味をしっかり出すことで味噌の量を減らす工夫をしています。また、おかずの和え物やお浸しなどでも、ごまやかつお節、刻み海苔など風味のある食材を使用することで、少しでも調味料を減らすよう工夫しています。
薄味でも子どもがおいしく食べられるようにするためのポイントがあれば教えてください
ごまやかつお節を炒ることで風味を出し、食材そのものの味わいを感じることで塩分を控えられます。
また、油脂を加えることでコクを増し塩分を控えることができます。
和食や麺類は塩分が高くなりがちですが、洋食や中華料理を取り入れ、1か月を通して塩分の調整をしています。
【おやつ・甘さについて】
保育所における“おやつ”の位置づけについてお聞かせください。
子どもの胃袋はまだ小さく、必要な栄養量に対して3回食では必要量の確保が難しいため、第4の食事としておやつを提供しています。1日の中で足りていない栄養素を補うように献立は工夫しておりますので、例えばカレーやシチューなど脂質の多い給食の日のおやつは脂質の少ないおやつにしたり、和食でエネルギーが控えめだった日のおやつはケーキにしたりしています。市販品やケーキなど甘いものだけではなく、おにぎりや焼きそばなども取り入れています。
砂糖の使用量や甘さについて、気をつけていることがあれば教えてください。
1日の目標栄養量の中で作成していますので、砂糖を過剰に摂取することはあまりないかと思います。ケーキ、蒸しパンなども提供していますが、甘さは控えめかと思います。
もし保護者の方で保育士体験の機会があればぜひ召し上がってみてください。大人にはちょっと物足りないかもしれません。
手作りおやつと市販品のどちらも献立に取り入れているようですが、それぞれどのように選ばれていますか?
食材の調達の関係から市販品を提供することもありますが、市販品は特に固いものは避け、噛み切れる、咀嚼できるものを提供しています。手作りでも同様に、味付け、量や固さなどに気を付けています。
【果物について】
果物が献立表の中で少なめに見える印象がありますが、意図や考え方があれば伺いたいです。
食物アレルギーの原因となりやすい果物は提供しないようにしています。毎月、可能な限り季節の果物を取り入れるようにしていますが、天候不順や原材料の高騰などの理由から果物の提供回数は多くはありません。
果物でのアレルギー対応など、気をつけていることはありますか?
キウイはアレルギーの観点から提供していません。そのほか、季節の果物を月に数回程度提供しています。初めて食べ、アレルギー症状がでることも考えられますので、献立表配布時に、情報提供を行い、事前に家庭でアレルギーの有無を確認してもらうようにしています。窒息予防の観点から、ぶどうやさくらんぼなどは提供していません。
【年齢差・食の発達への対応】
離乳食を終えたばかりの子どもに対して、食形態や食材の工夫はどのようにされていますか?
0歳児に関しては保護者と担任の保育士が相談して離乳食を進めています。完了食のお子さんには、乳児食を細かく刻んで提供していますが、つかみ食べやスプーンの使い方に応じて少しずつ形状を変えたり個々に合わせて対応しています。りんごなど窒息の危険があるものは煮りんごにしたり、こんにゃくは刻むなどで対応しています。食べさせている途中でも、先生が「ちょっと食べづらそうかも」と判断したときは調理室で刻んだものを用意してもらうようお願いすることもあります。
年齢によって食事量は変えていますか?家でどのくらいの量を食べさせたらいいのかいつも悩むのですが、保育所では食事量の目安はありますか?
ご飯の量を年齢により少しずつ調整しています。保育所内に献立見本を掲示し、目安となる量を参考にしてもらっています。(6~9月は衛生面から控えています)
ただ、保育所に通う年齢では体格や成長の個人差が大きいため、毎月の身体測定結果が成長曲線に沿っているかを見ることもひとつの目安かと思います。
誤嚥や消化の負担が心配な食材は、どのように扱っていますか?
全年齢でトマトは湯剥きして皮を除いています。また、おからドーナツは以前はボール状で提供していましたが、棒状に変えるなど誤嚥しにくい形状にしました。提供時も、保育士からよく噛んで食べるように伝えてもらっています。
【好き嫌いやアレルギーなど個別対応】
好き嫌いのある子への工夫はありますか?
苦手な食材に対して無理やり食べさせるのではなく、少しずつでも「食べられた!」の達成感を積むことを大事にしており、食べ始めるときに子ども自身に聞いて減らすなど対応しています。残してしまうこともありますが、周りの子が美味しそうに食べているのをきっかけに一口食べたり、日々少しずつ食べられるように保育士は接してくれています。給食をどのくらい食べたかは毎日連絡帳で保護者の方に連絡をするようにしています。
アレルギーを持つお子さんが入所された場合、保護者の方に協力していただくことや、必要な書類(医師の診断書など)はありますか?
越谷市立保育所食物アレルギー対応マニュアルに基づいて対応しています。入所前に生活管理指導票を渡し、病院を受診してもらい医師に記入してもらいます。医師の診断、保育士、栄養士、調理員が保護者と面談を行い対応について確認しています。その後、毎月アレルギー指示書と献立表を保護者に確認してもらい、日々のアレルギー対応も確認してもらっています。指示書に従って毎日食事を提供しています。年齢が進むにつれて、アレルギー症状は変化していきますので、毎年年度末までに病院を受診し、医師が生活管理指導票を記入後、次年度に向けて保育所と保護者で面談を行っています。
また、医師の指示により自宅でアレルギーの原因食品を少量ずつ食べているお子さんもいらっしゃいますが、運動によってアレルギー症状が誘発されることもあるため、登所日の朝食には摂取しないように伝えています。
【家庭との連携】
家庭での食事で意識してほしいことはありますか?
1日を元気に過ごすために、朝食は必ず食べてほしいと思います。朝食を食べてこないお子さんは、日中エネルギー不足からか元気がなく、ぐったりしていることがあります。まずは牛乳だけ、パンだけでも良いので、必ず何か食べてきてほしいです。
また、保護者の方も毎日の食事準備は忙しいかと思いますが、家族みんなで揃って食事をする時間を作ってもらい、「食べるって楽しい!」という時間を大切にしてほしいと思います。
【 栄養士さんからのメッセージ】
栄養士さんが「これはぜひ食べてもらいたい!」と思う一押しのメニューとそのポイント(もし可能であれば簡単なレシピも)があれば教えてください。
ひじきを煮物以外に活用できないかと考えた「ひじきのサラダ」は大好評です。そのほかにも越谷市公式Cookpadでレシピを公開していますので、ぜひ作って食べてみてください。
子どもたちに特に人気のメニューがあれば、その理由やエピソード、もし可能であれば簡単なレシピも教えていただけますか?
ルウから手作りをするカレーライスが大人気です。毎年年長さんと一緒に野菜を切り、炒めるのを手伝い、カレーライスを作る行事があります。市販のカレールウよりも優しい味わいで大人気です。そのほか、ドライカレーや鶏の唐揚、切干大根のサラダなども人気です。越谷市公式Cookpadにも少しずつ掲載しています。
日々、子どもたちの給食づくりを通して伝えたい想いや、大切にされていることがあればぜひお願いします。
毎日家事に育児に本当にお疲れ様です。食べることは365日3食、必ずついてきます。特に保育所にお子さんを預けている方は、働きながらの食事を作ることは楽しいだけではないかもしれません。保育所の給食が子どもの成長のお手伝いになっていることに喜びを感じながら、食育を通して、食事のマナーや咀嚼力なども伝えていきたいと思います。
「みんなで食べるとおいしい、食事は楽しい」を給食や食育をとおして子どもたちへ伝えられるよう工夫を続けたいと思います。
インタビューを終えて
今回、越谷市立保育所の給食について栄養士さんにお話を伺い、3つの大きな発見がありました。
1つ目は、徹底した「安全管理」。アレルギーや誤嚥防止のため、食材の選定から調理法まで、公的なガイドラインに基づいて細やかに見直されていること。
2つ目は、味覚を育てる「美味しさの工夫」。出汁や素材の風味を最大限に活かし、薄味でも子どもたちが満足できる味を追求されていること。
3つ目は、心を育む「食育への想い」。季節の食材に触れたり、調理に関わったりすることで、「食べることは楽しい」という体験を大切にされていること。
その他にも、「噛む力と体の発達は密接につながっている」というお話もお聞きしました。私は、噛む力をつけるには固いものを食べさせるべきだと単純に考えていましたが、たくさんハイハイしたりお外で遊んだりすることが、結果的に舌や顎の筋肉を育て、上手な「もぐもぐ」に繋がっていくそうです。栄養士の方々が、食材の知識だけでなく、子どもの発達全体という広い視野で一人ひとりに寄り添ってくださっていることに、ただただ頭が下がります。
編集後記
■色々な制限の中で安全に気を配り献立を考えられていることが良く分かりました。日々お子さん達の食事に向き合っている栄養士さんのお話を聞いて、息子が小さい時食べるのが遅くてお味噌汁で流し込むことがあったことを思い出しました。噛む力に食材が合っていなかったのかも?食材の形状(大きさ、固さ等)が合っていなかったかも?と理解出来ました!噛むこと、舌を動かすこと、食事のヒントをまだまだお聞きしたくなりました。(ゆきだるま)
■保育所の給食で、想像以上に細かい個別対応がされていて、驚きました! 保育士さんとの細やかな連携をされているので、お子さんのことで気になることは、どんどん先生に相談してみたらいいなと思いました。栄養士さんのお話には、「食べることを楽しんで、健康で豊かな人生を送ってほしい」という、お子さん1人1人を応援する愛情があふれていて、とてもあたたかなインタビューの時間を過ごさせていただきました。(みんと)
■娘を1歳0か月で保育所に入所させたとき、ちょっと前まで舌ですりつぶすようなものを食べていた子が、急に幼児食になるの!?3歳になる子と同じ塩分を摂るの!?とびっくりしたのを覚えています。でも今回のお話を聞いて、年齢や発達に合わせた工夫がしっかりされていることがわかり、とても安心しました。入所前に情報収集したくてもなかなか詳しく聞ける機会がなかったので、在園中のご家庭だけでなく、これから保育所を探す方にもきっと参考になるインタビューだと思います。(Lisa)
(2025年8月 byクワイエメンバー Lisa、ゆきだるま、みんと)