更新日:2012年3月6日
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東京大学宇宙線研究所長 梶田 隆章さん
ニュートリノの研究で、世界的な成果を生む現場にいられたことが幸運。次は重力波をとらえるという難関に挑む
柏市の東京大学柏の葉キャンパスでお話を伺いました。梶田さんはお台場にある日本科学未来館の監修もされています。「スーパーカミオカンデ」の模型や、実際の観測データから再現されたニュートリノがつくりだす光を見ることもできます。子どもたちにおすすめの体感型サイエンスミュージアムです。
プロフィール
1959年生まれ、東松山市出身。越谷市に在住。埼玉大学を卒業後、東京大学大学院修了。理学博士。1999年東京大学宇宙線研究所教授、2008年同研究所所長。ニュートリノの観測施設スーパーカミオカンデで観測を行い、ニュートリノが質量をもつことを確認した。朝日賞、ブルーノ・ロッシ賞、バノフ
スキー賞など数々の科学賞を受賞。一般向けの著作には『自然の謎と科学のロマン』(共著)などがある。
東大宇宙線研究所は、世界に冠たる宇宙線の研究機関
東京大学宇宙線研究所は、国内外に6カ所の観測拠点をもち、宇宙線を観測し研究しています。宇宙線は宇宙から地球に絶えず高速で降り注いでいる原子核や素粒子です。宇宙線には、物質の根源のミクロの問題から宇宙のマクロの問題までの情報が詰まっています。この研究は、物質や宇宙の謎を解明する手がかりになります。
梶田隆章さんは、宇宙線のひとつであるニュートリノ研究の第一人者であり、この研究所の所長を務めます。
ノーベル賞の小柴氏の下優れた研究者とともに研究
「物理を専攻したのは、漠然と自然科学が好きだったから。大学時代は、部活動(弓道)に力を入れていて、もっと勉強していればよかったと思います。本格的に研究を目指そうと1981年に大学院に進みました。東京大学小柴昌俊教授の研究室に入り、小柴先生をはじめ優秀な研究者に影響を受けました」
ニュートリノは、電子顕微鏡でも見えないほど小さく、物質を通り抜ける素粒子で、これをとらえることはたいへん難しいことです。
小柴昌俊氏は、自ら考案した観測装置を岐阜県飛騨市神岡鉱山跡の地下1000メートルに設置しました。この観測装置「カミオカンデ」により1987年に
超新星爆発(星が最期に爆発すること)によるニュートリノを世界で初めて観測しました。2002年には、こうした功績が評価されノーベル物理学賞を受賞。1996年には、カミオカンデの規模を大きくし高性能化したスーパーカミオカンデが完成しました。これを使って梶田さんも研究の成果を上げていきます。
「スーパーカミオカンデも当研究所の観測所のひとつ。世界から100人を超える研究者がグループをつくり、研究を行っています」。
転機は小柴研究室との出逢い 研究をつらいと思ったことはない
「人生の転機は、大学院で小柴先生の研究室に入ったことですね。それからカミオカンデの実験に参加し、世界的な成果を出す現場に立ち会えたことは幸運でした。研究でつらいと思ったことはありません。周囲から結果が認められなくてたいへんそうに見えたかもしれませんが、自分たちが間違っていると思ったことはなかったし、着々とやるだけだと思っていました。仲間がいるのも心強いですね」と、今までを振り返ります。
次の目標は重力波の観測
研究所では、新たなプロジェクトに取り組み始めました。
「重い物体が激しく動いたとき、空間を揺らして、それが真空を伝わると言われ、これを重力波と呼びます。具体的にはブラックホールができるときに観測されると思っていますが、この重力波をとらえようと昨年度からプロジェクトが始まりました。これは、たいへん難しいことです。太陽と地球との間を重力波が通るとして、空間が伸び縮みする、その大きさが水素原子1個分、それを地上の観測装置でとらえようというのですから、とてつもなく難しい。しかし、宇宙やブラックホールを理解するうえで、不可欠な研究ですから成功させたいと思っています」
アメリカやヨーロッパでは大きな観測装置を造っていますが、日本はさらに感度の高い装置を造り、初観測を狙いたいと語ります。
市民や子どもたちへメッセージ 興味があることをとことんやる
「26年前、結婚を機に越谷に転居しました。途中何年か離れ、今また越谷に住んでいます。越谷は水辺というイメージがあります。自宅の近くに元荒川があります。久伊豆神社の落ち着いた雰囲気がいいですね」
ニュートリノを研究する理由を子どもたちに説明すると?
「ここでニュートリノを詳しく説明することはできませんが、自然は、宇宙はどうなっているのか知りたい、それだけです」
最近、理科が嫌いな児童生徒が増えていると言われます。
「科学や技術で日本を支える人を育てるような教育が必要だと思います。今は、ニュートリノをはじめ、宇宙線の研究で日本は各国の上を行っていますが、きちんと教育が行われなければ諸外国に抜かされるのみ。危機感を持っています」
理科を好きになるにはどうしたらよいのでしょうか?
「わたしは自然科学が好きでした。自然や宇宙がどうなっているのか知りたいという気持ちが、研究を続けてきた動機です。若い人たちも、興味があることはとことん続けてみたらいいと思います」
東京大学宇宙線研究所長 梶田 隆章さん(PDF:466KB)
広報こしがや季刊版 平成23年度冬号(平成23年12月15日発行)に掲載
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