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作家 町屋 良平さん
物語を紡ぐ原点にはいつも幼少から青春時代を過ごした越谷がある
今年1月、若きプロボクサーの葛藤を描く『1R(ラウンド)1分34秒』で第160回芥川賞を受賞した町屋良平さんは越谷育ち。幼少期から多感な学生時代を過ごした越谷での暮らしと風景が、創作の原点になっていると言い、小説の舞台としても登場させています。
町屋 良平(まちや りょうへい)さん
プロフィール
昭和58年、東京・浅草生まれ。3歳から24歳まで越谷市に居住。埼玉県立越ヶ谷高校卒。
平成28年『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞し、同作で作家デビュー。平成30年5月に発表した『しき』が第159回芥川賞候補に選ばれるも受賞を逃すが、同年10月発表の『1R1分34秒』で第160回芥川賞を受賞。今年6月に越谷を舞台としたパラレル私小説『愛が嫌い』が出版されている。
同世代の作家に刺激されてプロへ
平成31年2月21日に行われた芥川賞の贈呈式
町屋さんが越谷に住み始めたのは3歳から。
以降、24歳まで続いた越谷での暮らしの中で、小説家への夢を育んできたといいます。
「子どものころから物語が好きで、小学生のときは家の近所の北部市民会館の図書室によく通っていました。そのころは本を読むより、紙芝居を眺めていることが多かったですね。国語が好きで作文も結構得意だったので、子ども心に「小説家になれるんじゃないか」と思っていました。実際に小説らしきものを書き出したのは中学生のときで、当時は大好きなさくらももこさんの作風をまねて書いたりしていましたね」と町屋さん。
高校時代、フリーター時代と書き続けていましたが、本気でプロの小説家を目指そうと決意するのは20代に入ってから。
「羽田圭介さんや綿矢りささんなど自分と同世代の若い作家が活躍していることにすごく刺激を受けましたね。それで自分もプロとしてやっていきたいという気持ちが強くなって、デビューにつながる文学賞に応募するようになりました」
習作を繰り返し、平成28年、32歳のとき、『青が破れる』で新人の登竜門として名高い文藝賞を受賞し、ついにデビューを果たします。
受け入れられる予感がした受賞作
体が弱かった子ども時代の反動で社会人になってはじめたボクシング
そして今年1月、新進作家に与えられる芥川賞に輝いた町屋さん。
受賞作『1R1分34秒』は、町屋さん自身がボクシングを習っていた経験から書き上げた作品で、壁に突き当たっている21歳のプロボクサーが、駆け出しトレーナーの変わり者、ウメキチの元で新たな可能性を切り開いていく物語。
「今までのボクシング小説では描かれていないタッチで、ボクサーの心情や減量のことを描きたいと思っていました。作品が出来上がった瞬間、「これまでで一番すばらしいものが出来た!」という達成感に酔うのはいつものことですが、この『1R—』に関してはいつもの達成感とは別に、書き手である自分でもコントロールできない魅力というか、よくわからない何かがある作品になったかも知れないという感覚がすごくあって。そんな思いがあったせいか芥川賞の発表のときは結構ナーバスになっていて、受賞が決まったときはもちろんうれしかったんですが、それ以上にホッとした気持ちが強かったですね」
表現しすぎないこだわり
執筆は夜。集中すると自分の身体から抜け出るような感覚になるんです
町屋 良平さんの作品
現代の若者の心のひだをみずみずしくリアルに描いたものが多い町屋さんの作品は、言葉の使い方や表記に至るまで独特の世界観があります。
「執筆する上で大切にしているのは、読者一人ひとりが読みながら頭の中で整理して、自分の状況に置き換えられる物語として手渡したいということ。だからあまりカチッと限定的な表現をしないで、柔軟性のあるぶよぶよしたイメージにしておくことや、読んでいるときの視覚的な柔らかさも考えて書いています」
さらに町屋さんが作家として目標とすることを伺うと、
「長く書き続けられる小説家でありたいというのが、まず大きな目標です。それから若い人が「自分も文学の世界に入ってみたい!」と思うきっかけになるような作品を書いていけたらと思いますね」
最新作に込めた越谷への「愛憎」
小説を書くとき使うのはスマホとパソコン。一人称の文章はスマホ、三人称はパソコンというイメージです
会社員として働きながら執筆活動をしている町屋さんは現在東京都内に住んでいますが、いまも時間があると越谷まで散策に来るそうです。
「子どものころによく行った場所、よく通った道にはなみなみならぬ思いがあるんですよね。今でもよく行く散歩コースは、せんげん台駅からスタートして大袋北小、北中と回るコースと、北越谷や越ヶ谷高校周辺を歩くコースかな。越谷を散歩していると小説のアイデアが浮かんでくるし、アイデアが浮かぶことを期待して歩いている面も正直あります。通勤の混雑さえなければ、本当は今も越谷に住みたいと思っているんですよ」
越谷への思い入れの強さを自負する町屋さんが6月に出版した最新作『愛が嫌い』は、「久伊豆神社へ鯉をみにゆく。」という書き出しで始まる、越谷が舞台の小説。
「好きな越谷の風景、住んでいた当時の成長過程の鬱屈とか、自分自身の情操をしっかり描こうと思った作品で、越谷への「愛」と「憎」がすべて詰まっています。パラレル私小説と銘打っていますが、実体験そのままということではなく、自分の人生もこうだったかもという想像を膨らませた物語です。市民の皆さんに身近な場所も出てくると思うので、読んでもらえたらうれしいです」
しっかり熱意を持って書き、良い文学を後世に残していきたい。
芥川賞作家となったことで、そんな気持ちが一層強くなったという町屋さん。今後発表される作品に、ますます期待が高まります。
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広報こしがや季刊版 令和元年9月(令和元年秋号)に掲載
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